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Short Essay 「逆転の発想、膨張顕微鏡法」

 質問です。皆さんが顕微鏡を使ってとても小さなものを見たいとします。どれくらい小さなものまで見ることができるでしょうか?顕微鏡は皆さんが理科の実験で使うものと同じタイプでそれの高性能なものとします。

 色々な答えがでてくると思いますが、正解は、320 nm(0.00032 mm)です。これより小さいものは見えません。この下限値は、私たちが光を目で見る時点で決まっており、アッベの回折限界といいます。すでに習ったかもしれませんが、私たちが見ることができる光は特定の波長をしています。そして、その波長によって見える下限値が決まります。そのためこれより小さなものを見ることはできません。

 でも皆さん、もっと小さなものを見たいと思いませんか?思いますよね。アッベの回折限界は100年以上にわたって超えることができない限界でしたが、今では特殊な顕微鏡を使うことでこれを超えて小さなものを見ることができるようになっています。なんだ結局見ることができるんじゃないかと思うかもしれませんが、相当に特殊な顕微鏡を使います。

 で、本題はここからです。とても小さなものを見たい場合、当然それを見れるような特殊で高性能な顕微鏡を作り出すというのが通常の発想です。でももっと簡単に別の戦略で小さなものを見る方法はないでしょうか。それを実現したのがアメリカマサチューセッツ工科大学のエド・ボイデン博士らです。ボイデン博士らは、「小さいものも大きくしたら見えるんじゃないの」とドラえもんのビッグライトさながらなことを考えました。そこで、見たい対象物を吸水性のジェルで覆い、水を吸わせて強制的に膨張させ、通常の顕微鏡を使って70 nmのものを見ることに成功したのです。完全なる逆転の発想です。この方法は「膨張顕微鏡法」と言うのですが、発表されたのは結構最近で2015年です。よくまあこんなの思いついたなと思いますし、この時代になってもまだそんな逆転の発想があったのかと感動します。

 科学って聞くと難しいと思うかもしれませんが、どんなに時代が進んでも、想像もしなかった新しいものに出会えます。これもまた科学の魅力です。  (K.)